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「左手の文庫」


「左手の文庫」(古いノートから)

昨夜、オペラシティで舘野泉さんのピアノを聴いた。(06.12.20 )

舘野さんが左手だけで弾くようになってもう2年。回を重ねるにつれてプログラムも充実し、タンゴやジャズなどを含むバラエティに富んだ内容になってきた。

ダイナミックな中にも一つ一つの音色がしっかり伝わってくる演奏。眼を閉じて聴けば五指だけで弾いているとは誰しも思わないだろう。

若い頃からずっと聴いてきたあの舘野さんが、何年か前に脳溢血で倒れ右半身麻痺で病床にあると知った時は、同い歳ということもあってショックだった。一時期ビアニストを諦めかけていた舘野さんを救ったのは第二次世界大戦で右手を失ったビアニストのために作曲された左手のための作品だったという。

復帰後も左手のための作品は余りに少なく、プログラムの大半は友人作曲家の好意に甘えて委嘱した作品に頼っている。

タイトルの「左手の文庫」は左手のための作品を充実させ将来はハンデを持つ音楽家を支援するために 舘野さんが呼びかけて設立したファンドの名称。

アンコールに応えて再びビアノに戻った舘野さんが静かに弾き始めたカッシーニの「アベ・マリア」の旋律に、隣席の女性が思わず涙ぐむ。

心に染みる一夜だった。  


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